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2016.01.23

スキーバス、事故の原因は?

1月15日に発生した痛ましいこの事故、監視カメラの映像も公開され、当時の状況もいろいろとわかってきました。

・事故1km手前の監視カメラでは正常だったが、その後100km/h近くの速度が出ていた可能性がある
・事故250m手前の監視カメラでは、80km/h前後の速度が出ていた
・事故車のギアは、ニュートラルだった
・ブレーキには異常がなかった

ギアがニュートラルだった点については事故の衝撃による影響も考えられますので定かではありませんが。

事故の原因についてはいろいろと憶測を呼んでいます。
私には事故の原因はわかりませんが、仕事で大型車の整備に関わっておりますので、車両について多少の情報はあります。

まず車両は三菱ふそうのバス、平成15年式あたりのKL-MS86MP型と思われます。
10穴ホイールとなっておりましたので、大型バスにしてはさほど旧式ではありません。
ブレーキは4輪ドラムブレーキ(大型車のディスクブレーキ採用例はほとんどありません)、油圧を使用しないフルエア式ですのでブレーキフルードはありません。
サイドブレーキはホイールパーク式というエアで効かせるタイプです。
正確にはエアで効かせるというよりも、スプリングの力で常時ブレーキを掛けようとしているところ、エア圧でそのスプリングを抑えてブレーキを効かなくしている仕組みです。したがってエア系統の失陥により空気圧が低下したときは、自動的にブレーキが掛かります。

ややこしいので動画を探してみました。
これが通常時。

フットブレーキを使用した時。

パーキングブレーキを使用した時。
エアが失陥した場合もこの状態となります。

補助ブレーキは通常の排気ブレーキに加え、エンジンリターダーも装着され、このバスの補助ブレーキはよく効くという評価です。

ミッションは6速、手元のチェンジレバーからミッションへは物理的には繋がっておらず、電気信号をミッション上部にあるGSU(ギア・シフト・ユニット)へと送り、空気圧力を電磁弁で制御しシフト・セレクト操作を行っています。

事故現場から250m手前の映像をみると、80km/h前後の速度で峠道を走行し、かつブレーキランプが点灯したままとなっていました。
ネットでもいろいろと意見があり、私も職場の人たち(今は管理者ですが、元々は整備士だった人たちです)と話をしていました。
以下、我々の感想。

①空気系統の失陥により、ブレーキが効かなくなったという説
→これは誤りです。
上に書いたように規定空気圧を下回ると、自動的にパーキングブレーキが掛かるようになっています。ちなみにこのパーキングブレーキは穏やかに効きますので、万が一のときは走行中に使用してもよかったのですが…。

②ベーパーロックを起こしたという説
→これも誤りです。
油圧を使用するエアオーバー式の車両もありますが、事故車はフルエア式ですのでブレーキフルードはなく、当然ブレーキフルードが沸騰することもありません。

③フェードしたという説
→可能性はあります。
大型車はフットブレーキに加えエンジンブレーキ・補助ブレーキを効かせないと、すぐにフェードしてしまいます。
乗用車のようにDレンジに入れたままで長い下り坂を降りる、なんてことはできません。
しかしそれらは運転手の常識ですし、問題はなぜフェードしたのか、なのですが。

④アクセルが戻らなくなった説
→少ないながら可能性はあります。
この年式の車両はまだドライブ・バイ・ワイヤーではなく、普通はアクセルが踏めなくなる(ワイヤーが切れる、リンクが外れる、など)ことはあってもアクセルが戻らなくなることはありませんが、噴射ポンプ内部の破損により全噴射またはそれに近い状態に固定されてしまう事もあります。
ただ、そうなったらクラッチを踏めばいいだけですが…。

⑤チェンジ操作ができなくなった説
→エンジンブレーキを使うためにシフトダウンしようとしたところ、Nから入らなくなったということは、GSUの故障によりありえると思います。
ただ、この場合もすぐに停車すればいいだけです。


いずれにしても、仮に何かしらの故障があったとしても、何かしらの手段を講じることはできたはずです。
最悪の場合は車体をガードレールに擦り付けてでも、速度を落とすことを試みるべきだったと思います。
普通の人には酷な話かもしれませんが、プロドライバーにはそれだけの責任が伴うのです。


故障があった場合ですが、話に聞くとディーラーともあまり付き合いのない会社で中古のバスを買ってきて使っていたようですから、定期点検等きっちりやっていたかどうかも不明です。
車検でも「とにかく安くすませてくれ」というお客さん(事業者)もたくさんいましたから…。
私たちも整備不良だけはないように、日頃からクルマのコンディションには注意を払っておきたいものです。


個人的な感想ですが、今回の事故の原因は
「完全な操作ミス」または「状況に適切な対応ができなかった」
のどちらかではないかと思われます。
車両の故障や整備不良があったとしても、250m手前の監視カメラから事故現場まで10秒以上の猶予はあったはずで、その間に何かできなかったものかととても残念に思います。


最後になりましたが、運転手の方も含め、亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。
運転手を責めるような内容になってしまったかもしれませんが、適切な教育なしに12mのバスを運転することになったこの方も、被害者であることには変わりありません。
詳しくは触れませんが、きちんと教育を受けた運転手がきちんと整備されて車両に乗ることができない会社が存在できることが、今回の事故の遠因になっていることも間違いはありません…。

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コメント

最新の報道によりますと、ブレーキにフェードの痕跡は見られないようですね…。


遅ればせながら、本年もよろしくお願い致します。

私は長野市在住ですが、軽井沢は長野県内でありますので、16日以降~今日現在まで地元紙には多かれ少なかれ何かしらこの事故の記事が毎日載っております。
私も事故に関連する記事はよく目にしていますが、車両に関する事実が明らかになればなるほど、この事故の原因が増々わからなくなって来ています。私は当初、居眠りかフェードかな?と思っておりました。しかし現在では、この二つは否定されております。

やはり今回の件では、運転手の方が亡くなられている、というのが、あらゆる点で最もつらいところですね…。
あと乗客の多くが翌日からのスキーに備え、多くが眠っていたというのも、出発から事故に至るまでの状況が今一歩つかめない点かもしれません。
車両の方の調査もまだ完全に終わったようではないので、原因究明には少なくとも、もうしばらくは時間が必要なのだと考えます。


私もこの事故に関しては、多くの疑問点やyattiさんの様に色々思うところがあるのですが、コメントがあまりにも長くなってしまうので、その内1つだけ強く思った事を書こうと思います。

私は年に6~7回、長野~新宿までの高速バスを利用します。ちなみに運行会社は、地元の公共交通を担うバス会社です(笑
利用し始めてもう10年位になりますか・・・。

そのバスに乗っていつも思う事。
「乗客の皆さん、どうしてシートベルトをしないのだろう?」
です。

街中を走る路線バスにシートベルトが無いせいなのか、その延長になっているのか高速バスに乗っているお客さんのシートベルト着用率が非常に悪い、と感じております。
もちろんゼロではありません。しかし、着用している人はホントに数えるほどなのです。
もしこれが、家族や友達の自家用車だったなら…着用率はどうなっていたでしょうか?
バスも自家用車も、同じ道路を走る車両なのですけど…。

今から4,5年前と記憶していますが、北海道で大型バスが道路から転げ落ちた事故がありました。
右側へ横転したか更に裏返しなったかは忘れてしまいましたが、そのショッキングな映像に対し、40人程乗った乗客・乗員に死者が1人も出なかったのです。理由は、全員シートベルトを着用していたから、だったのです。
このニュースを見たとき「やっぱり、シートベルトは大事なんだ!」と改めて思いました。

多くのご遺体を検死した軽井沢病院の先生によると、亡くなった方・怪我をした方を含め、身体の右側の損傷が激しかったそうです。おそらく、多くの人は眠る為に背もたれを倒し、(本来はあってはならない事ですが)窮屈になるのを嫌って敢えてシートベルトをつけなかったのかな?と想像しています。
もしシートベルトをしていたら、このうちの何人かはバスの横転と共に右側にふっと飛ばされず、命までは失っていなかったのではないか…?と非常に残念な気持ちであります。

私の乗るバスも高速道路に乗るのと同時にシートベルトのアナウンスが流れます。しかし、なかなかバックルを留めるカチッという音が聞こえて来ません。

一説ではバスの場合、一般道路では罰則が無い(ホントですか??)そうですけど、道路を走る車両である以上、シートベルトがあれば『走行中の着用は鉄則である』のだなあと改めて実感しています。

投稿: 凸庵 | 2016.01.26 02:13

こんばんは。

私も継続的に関連ニュースに目を通しておりますが、どうも操作ミスという結論になりそうですね。
どういうミスだったのか、それが一番気になるところではありますが。

今回に限らずバスの事故でいろいろな話を聞く機会が多いのですが、やはり大手の(しっかりした)会社のバスでないと、私は乗りたくないです(苦笑)。
整備に掛ける費用、運転手の教育に掛ける費用、これらが全然違うようですし。

シートベルトについては、いまだに「面倒」「窮屈」「かっこ悪い」という考えがあるのではないかと思います。
とはいえ誰しも装着すべきである、というのはわかっているわけで、ここはやはり「当然のことのように涼しい顔でベルトを着用する」のが一番ではないでしょうか。
不思議な心理(?)が働きますので、誰かが着用するとつられて周りも・・・というのはよくありがちかと思います。

なおバスにおける一般道では立ち席が容認されているように、シートベルトの着用は義務ではないようです。
もちろん高速道路では義務ですが、着用アナウンス(できれば肉声で)を必ず行うようにと指導を受けているそうですよ。
事業者として一定の努力をしたうえで、着用しない乗客についてはいたしかたない、という方針のようです。

言われなくても自己責任だと思うのですけども。

投稿: yatti | 2016.01.26 22:50

yattiさん、コメントありがとうございます。

相変わらずこちらでは事故関連の報道が続いていますが、昨日、重体だった方の意識が戻って命の危機を脱したという大変嬉しいニュースがありました。次段階は、後遺症が残らないようにと、ただただ願うばかりであります。

同じく先日、地元TV局のニュース内でNレンジついての理由を考える特集がありました。
内容は、長野の同じく公共交通を担う別のバス会社(こちらは長野~池袋間)の車両整備部長氏にこの内容を問う、という形でした。

やはり、下り坂走行時はフットブレーキだけでなく必ずエンジン・補助ブレーキも併用しないと運転は成り立たないとの事で、その為には事故発生時にNレンジだったというのは非常に不可解である、との事でした。ちなみに、これは1週間前位の県警の捜査担当者の話ですが、事故の衝撃でギアが変わる(Nレンジに変わる)事は過去の事例上、ほぼ無いそうです。

では何故Nレンジ?というと、部長氏はNレンジから他のギアに入れようとして入らなかった結果、Nレンジになっていたのでは?…と。事故直前、バスのスピードが80~100Kmと言われていますが、仮にエンジンブレーキを効かせようとしてシフトダウンしようとした時(ギアを抜いた時)、この速度域ならエンジン保護の為に3速以下には入らないだろう…との事でした。

またこのバス会社では高速バスの運転は、まず市街地の路線バスの経験を積ませた上で適性を見極め、少なくとも1年以上の時間をかけて転換させていると言っておられましたね。

また今日の地元新聞にも、Nレンジの検証ということで二人の識者(実務者と事故調査研究団体の人)の見解が記事になっていましたが、概ね部長氏と同じ内容でした。
そして、おそらくは…操作ミスの可能性が高い、との見立てでしたね。
また、運転手の方の死因は事故によるもので、脳や心臓・循環器系の疾患が起きていなかった事も確認されております。

こうしてみると、事故の原因はyattiさんの予想されるように、操作ミスか、残念ながら状況に適切に対応出来なかった(経験不足って言って良いのかな?)と思います。
しかし、私は大型免許は所持しておりませんが、フェードの痕跡が無いを含めフットブレーキに異常が無いのであれば、どうしてそんなに高速の状態にしてしまったのか?この点が非常に解からなく、わだかまりがあるのです。(なぜなら、フットブレーキが正常なら踏めば減速出来るハズですし、ある程度減速させれば3速や2速にギアが入って、エンジンブレーキも使えると思うからです。これは、免許を交付されている者であれば知っていて当然の事ですしね。(大型免許にAT限定なんて無いですよね??))
とすれば、「この運転手氏は、いったい何をしていたのだろう?(ブレーキを踏まなかったのか??ブレーキが問題なければフェードするまで何故使わなかったのか!?)」であり、これが私の今一番感じている不可解で、憤りとも言えるかもしれない残念な思いなのであります。(つまり、これを単に経験不足で片付けて良いのだろうか!?です)

…とはいえ、新聞記事には原因の究明はまだ途中であり、更なる詳細な鑑定も考えられている様なので、やはり今しばらく時間が必要でしょう。でも、運転手の方が亡くなっているのは今回の事例では、本当に本当に痛恨の極み、ですね。生存していれば、直接の事故原因やそれに至った間接的な原因(自社からの指示内容やツアー会社との関係はどうだったのか?)の解明は、明らかに今ほど困難では無かったはずです。
そして今回の事故原因の最終報告書にはおそらく、想像の域という点が少なからず含まれてしまうでしょうから…。


さて、これからは少し雰囲気変わって…。
(もうちょっとだけ、スミマセン。。。)

今回の大型バスの構造解説、ありがとうございました。
ちょくちょく高速バスを利用する者として、少し謎が解けた思いです。
実はこの10年の間に、急ブレーキにあう事が数回ありまして、その度に「バスのブレーキって凄く強力だな~~」って思っておりました。ドラムブレーキを採用しているのは、放熱性よりやはり制動力を重視しているからですか?あと、ブレーキフルードが無く、空気圧が使われている理由はフルードの使う量のコストや、あとは…べーパーロック対策(ドラムブレーなので熱ですぐダメになるから、とか)ですかね?

シートベルトについては、言われてみれば、運転手さんも乗車取り扱い終了後の各種案内のアナウンスの中1つに、肉声で再度言っているのを思い出しました。
また一説によると、時速20Km以上出ていれば、人は車が衝突事故を起こした時に、手で自分の身体を支える事が出来ないと言われます(昔、テレビでその様な実験を見ました)。なので、シートベルトを着用しなくてはいけないと。そうすると、車両が動いている間はほぼ着用していないと危険であると言えます。室内は快適な環境でも、外から見れば乗員は車と同じスピードで動いているのですから(事故れば、その速度(例えば100Kmなら100Km)で前のシートに叩き付けられる事になる)。
高速バス等でシートベルトを着用していない人は、残念ながら、この様な認識が無い人なのかもしれません。

また来月早々に高速バスに乗りますので、その時に着用の様子を再確認してみようと思います。おそらく、今回の大事故が教訓となって、着用する人が多くなっていると予想しますが…。

投稿: 凸庵 | 2016.01.29 01:41

こんばんは。
こちらではあまり続報が報じられることもなく、せいぜい「安全な貸し切りバスの見分け方」みたいな記事が掲載されるくらいです。

原因はやはり操作ミスとなるのでしょうが、シフトダウンしようとして、機械に拒否されて(オーバーレブを防止するため)、慌てているうちに速度が乗って・・・という状況だったのではないかと想像します。
もちろん本当のことは、誰にもわかりませんが。

ドラムブレーキについてはご想像どおり、制動力を重視したためだと思われます。
我々は「ドラムブレーキなんて」と思いがちですが、大型車にとっては制動力が何より重要です(車両総重量は20t近くになりますので)。
ただクレーン車(ラフターなどと呼ばれる、ホイールクレーンです)は強烈なディスクブレーキを装備していましたが、これは最高速度が低いからかもしれません。

フルエアー式は昔からあったのですが、その頃のは微妙なコントロールが非常に難しかったようです。以後はメーカーによってフルエアーだったりエアオーバーだったりしましたが、最近になって路線バスも含めてすべてフルエアーになったようです。詳しい理由は知らないのですが、絶対的な制動力を確保するためだったかな?
コントロール性も昔とは違い、違和感がないものになっているようです。

シートベルトの話で思い出しましたが、高速バスの押しボタンって天井付近にあり、非常に押しにくくないですか?
これはシート規制が導入されたとき、シート背面に突起物があるのはいかん、ということで押しボタンの設置も認められなかったためのようです。そのため押しボタンを押そうとすると、シートベルトを外さないと届かないという、なんとも間抜けな事態になってしまったそうです(押しボタンメーカーの人から聞いた話です)。

行政もときどき(いつも?)おかしなことを決めてくれますが、実際に振り回される現場はどの業界もなかなか大変です・・・。

投稿: yatti | 2016.02.03 23:39

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